■ 牧野琢磨によるダウト・ミュージック・レビュー 2006年3月13日2006.6.5

 正直者だから疑り深いのか。音楽無しでは生きていけない、というコピーはいかにも正直者が言いそうな雰囲気があるし、がむしゃらでかっこいいじゃんという美徳を多数の人間に想起させたという点でポピュラーだが、それはコピーであるということを忘却した上での話だ。レコード屋で働いている人間がヨク問われる質問の一つに「おたくのお店のジャンル分け細か過ぎませんか?」といった類いのものがあるが、批評の場であるならともかく、レコード屋という商業組織体におけるカテゴライズとはPOSシステムによる効率化と同義である。アメリカ政府が出資した政党が国内最大規模の宗教団体を飲み込み日本橋に自分の銅像を立てたがっていそうな人間が議事堂で一番偉い昨今、と言うといかにも大袈裟だがともかくも、意図は隠蔽され浸透し続ける。
 自身のレーベルに「疑」の一文字を冠した沼田順は疑り深い。2004年にディスク・ユニオンを退社後、しばらくして始めたレーベルがダウト・ミュージックである。現在までに計七作をリリース、特に深い意味は無い(と本人は言う)穴あきデジパック・ジャケットが一貫した装丁である。
 大友良英ニュージャズ・オーケストラによるエリック・ドルフィーのカバー・アルバム「アウト・トゥ・ランチ」が執筆中の現在では最新作。次回リリースには巻上公一のソロ作と、アルタード・ステイツのアルバムが控えている。大友オーケストラによる作品は上記の他に「ONJO」が発表されているが、歴史にならない過去現在未来を我々に提示しているという点でどちらも重要な作品である。梅津和時、マツ・グフタスソンによるソロ作品もリリースされており、こと「ジャズ」においてソロ作は成功しないというジンクスに抗ったんじゃんと見る向きもおありだろうが、取り込まれる訳でもないしアゲインストでもない(つまりは単純じゃない)組織と個人の関係を模索し続けていたであろう沼田にとっては至極真っ当なプロダクションなんだろうなぁ、と僕は思っている。
 大仰な機構を仕掛けてドでかい稼ぎを得るのが即ち商売である、というのは朴訥な認識ではなく単なる常識だがタイマン好きの沼田はそこに「疑」を唱える。「異」じゃないって言うのがミソで、やるならやっててよこっちはこっちでやるからさ、という強靭でユーモラスな仕種があるのだ。(牧野琢磨)


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